アメリカ留学を控えた友人と、なんとなくノリで入ったアイリッシュバー。
そこで出会ったブルガリア人は、セクハラまがいのナンパ野郎でした。
最初は、いつものご飯会
長年の夢だったアメリカ留学に行く事になった親友のC子と、お気に入りの居酒屋さんで久しぶりに一緒にご飯を食べました。
美味しい日本酒と居酒屋メニューに舌鼓を打ちながら、夢一杯にアメリカ留学について話すC子。
そんなたわいもない話に華を咲かせながら、お腹いっぱいになるまで食べて飲んで、ほろ酔い気分でお会計をすませて、外に出ると、ほんのり赤い顔をしたC子が言いました。
飲むとなったら、とことん飲みたい。
それがC子です。
翌日、二日酔い故の死んだ魚の目になった事、数知れず…。
この間、教えてもらったんだー。
ドキドキ初体験。一見さんでも大丈夫?
外国人の友達が多いC子。
その友達の誰かから教えてもらったという、小さなアイリッシュパブに行く事になりました。
小さいお店だから常連が多くて、いい感じらしいよ。
いい感じに酔っぱらっているC子は、すずこに返す言葉もなんだか適当です。
賑やかな繁華街を抜けて、少し人通りの少ない裏道を歩いて行くと、何の変哲も無い雑居ビルの前でC子が足を止めました。
ほら、ここの3階のガラス窓のとこ。
見上げると3階部分は全面ガラス張り。
テーブルや椅子はなんとなく見えるけど、人影が全くありません。
足取り軽く3階に向かうC子の後を追うすずこ。
パブの入口は、なんだか重そうな木の扉です。
ぐいっと引くと、チリリンとなる鈴の音。
え〜、ちょっとなんでハローなのよ?
全く物怖じしないC子に、内心ドキドキしながら続きます。
C子の肩越しに見えたのは薄暗い照明。
その照明の下、細長いバーカウンター越しに外国人のお兄さんがにっこりしています。
見渡してみると、数人のお客さんがいる模様。
でも、なんだか、みんな外国人みたい。
別に日本人でも大丈夫〜。
壁際にあるいくつかの丸テーブルには、ぽつんぽつんと、いかにも常連そうなお客さん達が座っています。
何となく、席が決まっているかの様なその座り方に、まだ誰も座っていないバーカウンターへと、自然と向かうすずことC子。
日本語?それとも、英語?
バーカウンターの中央辺りに、ちょこんと座ったすずことC子。
ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべたバーマンのお兄さんが近寄ってきました。
バーマンにビールを2つ注文し、店内をきょろきょろ見渡す2人。
お世辞にも流行っている、人気の店。
という雰囲気ではありません。
ビールを持ってきてくれたバーマンに、ずけずけと聞くC子。
酔っぱらいは怖いもの無しです。
常連客でもない。
ましてや、初めてのお店で聞く事ではありません。
もうすこししたら、たくさんくるとおもうよ。
たどたどしく拙い日本語でそう返され、外国人が話す日本語の拙さがいかに可愛らしく響くかで、話が盛り上がるすずことC子。
ふと気づくと、店内には先ほどよりお客さんが増えています。
さっきまで、貸し切り状態だったバーカウンターにも数人座って、各々お酒を楽しんでいる模様。
そして、耳を澄ませて聞いてみると、外国人のお客さんとは、英語で会話しているバーマン。
次、バーマンが傍に来たら、英語で話しかけてみようね。
そんな事をC子と話していると、また、誰かお客さんがやってきました。
何気なく、入口の方に目を向けると、どうやら、年が近そうな外国人男性が1人。
お客さんの年齢層が高いパブの中で、一直線にすずこ達の方へやってきました。
「となりいいですか?」
黒い短髪にがっちりとした体格、白い肌。
爽やかでお行儀のいい笑顔と物腰でそう聞かれたら、特に断る理由もありません。
C子の横には、いつの間には、他のお客さんが座っています。
2つ空いていたすずこの横の席で、当然の様に、すずこの真横に座るその男性。
あなたは?
たどたどしい日本語に内心萌え萌えしつつ、正直に答えると、C子が身を乗り出して質問します。
さっきからビールをぐいぐい飲んでいるC子は、ここでも酔いに任せて、ずばずば質問します。
ぼくはブルガリアじんです。
びようしです。
C子の勢いに気圧されながら、それでも、丁寧に答えるブルガリア人。
2ねんぐらいはたらいてるよ。
すずこ、イメチェンしたいって言ってたよね〜。
切ってもらえば?
アメリカ留学が決まり、これから忙しくなるから。
と数日前に、長かった髪をばっさり切って、肩上の可愛らしいボブスタイルへと変わったC子。
そんなC子に、1軒目の居酒屋で、確かに、そろそろ髪が切りたい。
と話しました。
話しましたけど…。
美容師ですから、髪ネタは得意です。
かみきりますよ。
酔っぱらいC子の言葉を真に受けて、ブルガリア人ぐいっと間合いを詰めてきました。
え!?ちょ、ちょっと!!近いから!!
思わず、C子の方へのけぞる程、近づくブルガリア人。
そしてじょうぶ。
だから、カットむずかしい。
でも、ぼくだいじょうぶ。
きれます。きります。
営業トークにしては、いささか不安がよぎる口上です。
ブルガリアじんのかみは、もっとやわらかいです。
ねこけおおいです。
あはは、にゃーん。
あ、おにーさん、ビール追加で〜。
酔っぱらいは、すずこの隣でにゃんにゃん猫真似しながら、ビールを注文しています。
じょうぶですね。
どれくらいきりたいですか?
C子の合いの手?に気を良くしたのか、間合いを詰めるだけでなく、すずこの髪を手に取るブルガリア人。
ひぃ!!
好きな相手になら、触られて嬉しい髪の毛。
見知らぬ相手に触られて、気持ち悪い事この上無しです。
大丈夫だよ〜。
ぼく、きりますよ。
ながいかみですね〜。
ぼくすきですね〜。
たくさんきらないですよ。
ながいのすきですね〜。
あんたの好みは聞いてなーい!!
髪を一房取って愛でていたブルガリア人は、その手をそのまま、すずこの後頭部へ。
髪の毛な〜でな〜で♡
あわわわ!!
まさに、背筋がぞわぞわ!!その感触!!
大丈夫だから。
お願いしないから。触らなくていいから。ね。
もう、髪の毛関係ないし!!
すずこの後頭部で、なでなで動く手を振り払おうとすると、そのまま腰までスライドする手。
ちょ!!C子!!助けて!!
焦ってC子を見ると、反対側に座っていた、他のお客さんに絡んでる!!
しかも、そのお客さん、あからさまに迷惑な顔してるよ〜。
C子気づいて〜!!酔っぱらい過ぎだよ〜!!
そんな風に一瞬気が逸れた隙をついてか、気づけば、ブルガリア人、超密着!!
腰にまわされた手、ぴったりくっつく身体。
すずこの髪に鼻をうずめて、すんすん匂いを嗅ぐブルガリア人。
もー無理!!限界!!帰る!!
ブルガリア人の手を振りほどく様に立ち上がり、バーマンを呼びました。
もう返事はしません。
目も向けません。
お会計のために財布を持つすずこの手に、その手を重ねようとしてくるブルガリア人。
もちろん、手なんて重ねさせません。
大急ぎでお会計を済ませて、大虎寸前のC子を引っ張って、かなり強引にお店から退却。
ただのセクハラだよ。
もー髪の毛、気持ち悪い!!
怒りまくるすずこと、待ったく状況を理解していないC子。
その後、そのパブに2度と行かなかったのは、言うまでもありません…。
教訓
後日、そのしつこかったブルガリア人の話を、行きつけの美容院で、長年お世話になっている男性美容師さんに話してみました。
それ、ホントに美容師だった?
その人が言ってただけだからねぇ。
って事は、もしかして、やっぱり、あのブルガリア人は美容師じゃなかった???
どちらにせよ、職業を振りかざして、寄ってくる男は、警戒した方が良さそうです…。
文: すずこ