日本を飛び出して、ヨーロッパに住み始めてから早数年。
日々、個性豊かなヨーロピアンに揉まれているうちになんとなく気づいた事。
どうやら、自分は、日本人より外国人にモテるらしい。という事。
と言っても、私すずこ本人に、外専(外国人専門)というつもりは全くありません。
日本人の元カレも何人かいるし。
でもね、思い返せば、日本在住時からナンパしてくる相手は、なぜか外国人ばかり。
ざっくり思い出すだけでも、アメリカ、フランス、ペルー、インド、ブルガリア、ドイツ、イタリア…国際色豊かなナンパ野郎達は、それぞれキャラも実に個性的でした。
「これなんてよむんですか?」
外国人の典型的なナンパ台詞ともいうべき
「これなんてよむんですか?」を言われたのは、駅前の大きな本屋さんで立ち読みをしていた時の事。
つんつんと突かれ、何気なく振り返った視線の先にいたのは、スーツを着た小柄な一人の男性。
浅黒い肌に黒々とした癖のある髪。額の真ん中には、ぽつんと赤い印。インド人とおぼしき男性が、片手に持った本の表紙に書いてある漢字を指差しながら立っていました。
小学校低学年で習うような漢字を指差して、にこにこ笑うその男性。ひとあたりの良さそうなその笑顔に、思わず答えてあげると、すかさず違う本棚に並ぶ違う本を指差して繰り返す。
あれ?手に持ってる本、気になってたんじゃないの?
若干戸惑いつつも、外国人に漢字はさぞ難しかろうと
彼が指差す本の背表紙を読み上げる。
読み上げると同時に、ほかの本を指差す浅黒い指先。
3回目も、えぇ、答えてあげましたよ。
いささかの不信感と戸惑いをにじませながら。
3回目にして、ようやく違う言葉が出てきました。
留学生にしては少しばかり年が行き過ぎているように見えるこの男性。
ナンパのつもりなんでしょうけど
3回も繰り返すあたりが、なんだか面白くなってしまい、こちらからも質問。
会話のラリー始めてしまいました。
今思えば、ここでさっさと帰っておけばよかった…。
やはり留学生ではなかった男性、さらに突っ込んできます。
いや、本当はOLじゃなかったけど。
初対面の見知らぬ他人に、個人情報教える必要ありません。
というより、晒しちゃダメ。危険すぎるし。
「すわってはなしませんか?」
実はそろそろ帰ろうかな。と思っていた時分。
本屋さんぶらぶらするのもそろそろ飽きてきたし、なんとなく小腹も空いてきた夕暮れ時。そんな時、目の前に現れたのがこのインド人。
これは脈ありと思われたのか、ニコニコ笑顔で聞かれました。
でも、腰落ち着けたら話が長くなりそう。そんな長く話す気ないんだけど?
渋るすずこに食い下がるインド人。
まぁ、特にその後の予定もなく
ヒマと言えばヒマを持て余していたので
そんなに言うなら、少しぐらいお喋りにつきあってあげてもいいかな。
なんて、軽い気持ちで上から目線を若干混ぜてオッケーしてみたわけです。
いや、本音を言うと、街中で時折、額に赤い印をしたインド人とおぼしき人を見かける事はあったけど、こんな間近でお話するのは、初めて。
えぇ、単なる好奇心です。それだけでナンパのお誘い受けました。
「ここすわりましょう。」
駅前ビルの1階本屋さんで声をかけられ、上の階に落ち着いて話せる場所があるという彼。
上の階には確かスーパーと飲食店がいくつかあったはず。
てっきりカフェにでも行くのかと思えば、彼が指差したのは、飲食店が立ち並ぶフロアの真ん中にぽつんと置かれたベンチ。
目の前には、うどん屋さんの青い暖簾がひらひら。
「準備中」と書かれた札がちんまりと下がっています。
折しも夕食時には、少しばかり早い時間帯。おかげで、人通りもほとんどありません。
スーパーの館内放送と賑やかな音楽が、騒がしくない程度の音量で響いてくる中、ベンチに小柄な日本人とインド人、並んでちょこんと座ります。
もちろん、2人の間は微妙にあけて。
味も素っ気も無い。というか、妙に中途半端なその空間。
居心地が良い訳も無く、目の前の暖簾を眺めているうちに、その状況がだんだん楽しくなってきちゃいました。
片言の日本語を話す会ったばかりの小柄なインド人と、開店前のうどん屋さんの暖簾を並んで眺めている。
こんなシュールなシチュエーション、滅多に無いよ!!
インド人質問攻めにする
好奇心むき出しで、目の前のインド人を質問攻めにするすずこ。
癖の強い片言の、でも、かなりうまい日本語で、負けじと質問してくるインド人。
自分の事は、曖昧にぼかして、疑問形を投げ掛け続ける事15分ほど。
そろそろ飽きてきたので帰ろうかと思うも、ついつい質問をし続けたせいで、自分語りが止まらないインド人。
しまった。質問しすぎた。
話を切り上げるタイミングが見つからない…
目の前のうどん屋さんは、「準備中」の札が「開店中」へと変わり、開かれたままの入り口からは出汁のいい匂いが漂い始めています。
お腹空いたなー。本屋さんで終わっとけばよかったなー。
すぐ横では、相変わらず、インド人が自分語りを続けています。
比例するように飽きてくるすずこ。もう、帰りたい。
インドお腹いっぱい。
「これ、しごとのしょるいです。」
うなずくだけになってきたすずこの目の前に、差し出される数枚の書類。
中古車の販売をしているという彼。
書類はその中古車の取引書類。
個人情報だよ!!しかも、他人の!!
こらこらこらこら、見せちゃダメだよ!!
指差して見せるな。車種は分かったから。そこに書いてあるのはお客さんの名前、住所、番号、金額…。
さすがに言いました。インドじゃどうか知らないけど、日本では、そういう行為はよろしくないのよ。
個人情報漏洩って言うんだよ。
何を根拠に言ってるんだか。そんなに堂々と見せられると、引きます。ドン引きですよ。
多分ね
自分は怪しくないよー。
ちゃんと仕事してるよー。
嘘じゃないよー。
っていうアピールだったんだと思うんだけど、それは見せちゃダメだ。うん。ダメ。絶対。
それに「これはなんてよむんですか?」って聞いてきた漢字より、ずっとずっと難しい漢字が並んでるぞ。その書類。
「また、あいましょう。」
書類のおかげで、一気に微妙な空気が流れました。
白々しい台詞と共に、腕時計を見るすずこ。
この機会を逃したら、また暫く帰るタイミングを逃しそう。
バッグをごそごそ漁っていた彼は、手帳を開いて何やら書いています。さっさと立ち上がってよいものか迷っていると、またもや目の前に差し出された一枚の小さな紙。
そこに書かれていたのは、彼の名前と電話番号、メールアドレス。明らかにナンパだったとはいえ、強引にこちらの連絡先を聞き出そうとしないあたり、まだ紳士的ってとこでしょうか…。
彼からもらったその連絡先は、迷う事無くその日のうちにゴミ箱行きとなりました。
教訓
「これなんてよむんですか?」は、ナンパしたい外国人の常套句。
興味の無い相手だったら、無視しちゃいましょう。
ホントに読めなくて困ってるかも?そう思うなら、読み方だけ教えてあげましょう。
でも、何度も丁寧に教えてあげると相手は調子に乗って、この女は落とせる。って思っちゃいます。
もうねこういう精力剤全部飲んでるんじゃないかっていうノリの性欲の強さでぐいぐいきちゃいます。
特に外国の男性は、日本人に比べて、かなり積極的な人が多いもの。その気が無い相手には、冷たいぐらいの態度で毅然としていないと、しつこくつきまとわれやすくなります。
文: すずこ